ケアシノスリの成幼雌雄推定*改訂版

 2022-2023シーズンはケアシノスリが全国的に多く、2023-2024シーズンは道北、根室周辺で非幼鳥の渡来が多く、年齢推定・雌雄識別に興味が出たため文献で調べた事に自分なりの見解も加えてまとめてみました。

 ケアシノスリについて興味を持ち、snsやブログ記事を漁っている時に気になったのですが、ケアシノスリの幼鳥を尾羽の模様から雌雄識別しようとしている方をしばしば見かけました。今のところ、幼鳥は模様での雌雄識別が出来ないとされています。成鳥の雌雄識別点は幼鳥には当てはまらないので、まず成鳥か幼鳥かの識別、成鳥であれば雌雄識別、の順に行うと良いです。成鳥の雄と雌は性差が出るため、雌雄どちらか分かる事が多いです(一部悩ましい個体がいます)。
 以下、まだ換羽を行っていない1年目の個体を幼鳥、換羽を経験した2年目以上の個体を成鳥と呼ぶ事にします。

( *改訂前は2年目個体を分けて考えていましたが、旧羽が幼羽か成羽か判断するのは非常に困難なため、2年目か3年目以上かを判断する事は至近距離で尾羽の旧羽を見れない限り難しいと思われます。)

Step1〈成鳥と幼鳥の識別〉
全ての個体に当てはまる訳ではありませんが、当てはまる事が多い特徴を表にしてみました。

幼鳥 成鳥
虹彩 淡色 暗色
②尾羽 横帯が不明瞭 横帯が明瞭
③翼上面 初列風切基部が白い 一様に灰色
④翼下面 翼端の黒帯が薄い 翼端の黒帯が濃い
⑤換羽 旧羽がない 旧羽が見られる

①〜④の特徴からどちらか片方に3つ以上当てはまる場合はその可能性が高いです。旧羽が見られる場合は確実に成鳥と言って良いです。旧羽が見られない成鳥もいるので、総合的な判断が必要です。

Step2〈幼鳥・成鳥の各特徴の個体差の把握〉
虹彩
虹彩は幼鳥の場合は淡色な傾向があります。しかし暗色気味になる個体も少なくないので注意が必要です。しかし淡色な成鳥は自分の知る限り見た事がないので、淡色の場合は幼鳥と思っても大丈夫だと思います。
・幼鳥の虹彩バリエーション
虹彩が淡色だと言われている幼鳥ですが、結構個体差があります。文献ではかなり暗色の個体も掲載されていました(ワシタカ・ハヤブサ識別図鑑)。

・成鳥の虹彩
光の当たり方や個体によって多少変わりますが、暗褐色〜黒褐色に見えます。

②尾羽
幼鳥は尾羽の横帯が下面では薄く、上面では境界が不明瞭で太くなる傾向があります。しかし稀に成鳥の様な尾羽を持つ幼鳥もいる様なので注意が必要です。
・幼鳥の尾羽下面
幼鳥の尾羽下面の模様は淡く不明瞭な傾向にあります。

・幼鳥の尾羽上面
幼鳥の尾羽上面は太くて境界が不明瞭な横帯と、何本か不明瞭な細い横帯が組み合わさった様な模様をしている事が多いです(この不明瞭な細い横帯の本数は雌雄に関係ないと思われます)。不明瞭な細い横帯は見られない場合もあります。下面に比べて色が濃く境界がはっきりしている個体が多いです。左上の個体の様に一見成鳥との判別が難しい個体もいます。

・成鳥の尾羽下面
雄成鳥4個体(左列)と雌成鳥4個体(右列)のバリエーションです。
成鳥の横帯は色が濃く境界がハッキリとしている傾向にあります。また、基本的には雌は横帯が1本、雄は2本以上の傾向が強いと思っています。しかし、腹部の模様によって推定した雌雄と尾羽の傾向が合わない場合もあり、その場合は雌雄どちらか非常に悩ましいです。

・成鳥の尾羽上面
雄成鳥5個体(左列+右列1番下)と雌成鳥3個体(右列上から3つ)のバリエーションです。雄成鳥については、上面も下面同様に横帯は色が濃く境界がハッキリとしている傾向にあります。一方雌成鳥は横帯が下面に比べて太く、根本側の境界が不鮮明になる傾向があると思っています。雄成鳥については、若い個体は横帯の境界が不明瞭だったり、滲みが見られ、年齢と共に模様が明瞭になると共に横帯の数が増えると考えています。
また、上尾筒の斑が太い傾向にあるのも成鳥の特徴と考えています。

③翼上面
幼鳥は初列風切基部が白く色が抜ける傾向にあります。しかし成鳥も一部で白く色が抜ける個体がいるので注意が必要です。
・幼鳥の翼上面
幼鳥の初列風切上面は模様がハッキリと出ずに基部の色が白く抜ける傾向にあります。

・成鳥の翼上面
成鳥は翼上面が一様に灰色/暗褐色な傾向がありますが、初列風切の基部がやや薄くなる個体は珍しくありません。特に右列1番上の個体は一見幼鳥を疑うほど白く抜けていました。成鳥は初列風切に旧羽を残している事が多く、それを確認出来れば幼鳥が否定されるため、幼鳥と成鳥を見分ける重要な識別点になり得ます。旧羽を見分けるには色味(旧羽は褐色が強く見えたり、白っぽく見える)と擦れ具合を見ます。

④翼下面
・幼鳥の翼下面
幼鳥の翼下面は翼端の黒帯が淡い傾向があります。

・成鳥の翼下面
成鳥は翼端の黒帯のコントラストが強くハッキリと出ます。


Step3〈雌雄推定〉
基本的に成鳥の雌雄識別は腹部から脚にかけての模様を見て行います。
よく言われる雌雄識別点に「尾羽の横帯が1本だと雌、2本以上だと雄」というものがありますが、傾向的に当てはまる事が多いだけで、横帯が2本以上の雌が存在すると思っているので、そこだけで判断は出来ないと思います。また雄の若鳥では尾羽の横帯が1本に見える個体がおり注意が必要です。

成鳥の雌雄の特徴【腹部】
・雄成鳥の腹部から脚にかけての模様
横斑が見られる傾向があります。腹部から脚にかけて横斑が出る個体もいれば、縁辺部にだけ横斑が出る個体もいます。

・雌成鳥の腹部から脚にかけての模様
模様が一様な傾向にあり、横斑状は見られても基本的には脚周りだけと考えています。

成鳥の雌雄の特徴【尾羽の黒帯】
〈尾羽下面〉
・雄成鳥
横帯が2本以上出る傾向にあります。しかし1本しか出ていない様に見える個体もいるので注意が必要です。

・雌成鳥
基本的に境界がはっきりとした太い横帯が1本見える傾向にあります。若い個体は細い事もありますが、境界は明瞭です。

〈尾羽上面〉
・雄成鳥
大体下面と同じ印象です。若い個体は境界に滲みが出たり、模様の完成度が高くないのではと思っています。

・雌成鳥
雌は下面の横帯より太く見える傾向があると思っています。雌成鳥の尾羽上面を鮮明に撮影すると、黒くはっきりとした横帯からその付け根側にやや薄い滲んだ様な模様が延長している事が多いです。その滲んだ様な模様は下面からは見えず、上面だけに見えているのかなと思います。

〈その他〉
他にも雄成鳥は喉から胸にかけての斑が太く出る傾向にありますが、雄でも細い個体や雌でも太い個体がいるため、最終的には総合的な判断が求められます。基本的には腹部から脚にかけての模様を見れば推定出来る事が多いです。
またサイズによっての雌雄推定も可能で、2羽のケアシノスリが並んでいた時に明確に体格差があれば、大きい方が雌、小さい方が雄と推定出来ます。

〈雌雄推定の悩ましい個体〉


一見すると雌成鳥に見えるが、よく見ると尾羽の横帯は下面、上面共に2本に見える。



こちらも腹部の模様は雌成鳥に見えるが、尾羽の横帯は下面、上面共に2本見える。



自分は、色々調べたり実際に観察した結果、以上の点を考慮してケアシノスリの成幼雌雄推定をしています。ここがおかしいのではないか、ここが分かりづらいなどご意見ありましたらコメント頂けると幸いです。参考文献はフィールドガイド日本の猛禽類vol.4ノスリ、BIRDER2014.2月号YoungGunsの野鳥ラボ、などです。また写真を提供してくれた皆様ありがとうございます。

次の記事では、実際の個体をどの様な点から成幼雌雄推定をしたのかという内容や、年齢推定(ほぼ妄想だと思ってください)で考えた事を掲載した記事を更新しようと思います。